堺雅人のはまり役「半沢直樹」

去る8月11日に放送された、TBSテレビ「日曜劇場『半沢直樹』」第5話でドラマは一区切りとなり、第6話からは舞台を大阪から東京に移し、新たなスタートを切ります。
8月18日は『世界陸上』のためにお休みで、一週おいた8月25日から再開となります。

回を重ねる毎に視聴率がアップしていく現象は、近年のテレビドラマでは見られなかった事で、同じくTBSテレビで人気を博した『仁』(2009年、2011年)はもとより、最終話に視聴率40.0%を記録した『家政婦のミタ』(日本テレビ / 2011年)でさえも中だるみが存在しました。

因みに『半沢直樹』においては、初回が19.4%、第2話が21.8%、第3話が22.9%、第4話が27.6%、第5話は29%でした。
今や、一種の社会現象として他のメディアでも取り上げられ、ドラマ好調の分析も行われています。

「やられたらやり返す!」「倍返しだ!」は主人公・半沢の台詞としてたびたび登場します。
銀行マンにはおよそ不似合いな台詞であり、今年の『流行語大賞』の候補には間違いなく選ばれるでしょう。
言い換えると「やられ損や泣き寝入りで終わらない」「逃げ得は絶対に許さない」となるでしょう。

理不尽な上司たちの言動にも、ひるまずに対峙していきます。
融資を踏み倒した東田(宇梶剛士)を追いつめて奈落に突き落とし、職務を利用して妨害した国税局統括・黒崎(片岡愛之助)を切歯扼腕させ、文字通り「倍返し」を果たします。
不正融資の絵を描き、その責任を半沢に押し付けようと画策した支店長・浅野(石丸幹二)に対しては、東田と旧知の仲である事を突き止め、その東田から5億円を回収し、「10倍返し」で容赦なく追い詰めていきます。

当初は銀行に不信感を持っていた竹下(赤井英和)、一度は東田の逃走を手助けした愛人・藤原未樹(壇蜜)、「共に闘う仲間」として結束した融資課の行員(角田・垣内・中西)たち、同期であり良き理解者でもある渡真利(及川光博)、内助の功を発揮する妻・花(上戸彩)、半沢の父・慎之助(笑福亭鶴瓶)と、その死の真相にも関わる常務・大和田(香川照之)などなど、登場人物のそれぞれが存在感を与えられ、ドラマを引き立てています。

私感ですが、このドラマがヒットした最大の要因は、一つは『半沢直樹』と言うストレートなタイトルにあると思います。
私を含め、多くの方は「誰?」「どんなキャラクター?」と思ったのではないでしょうか。
それ故視聴者の好奇心を刺激し、結果として多くの人を引きつけたように思います。
二つは、サスペンスドラマの要素と小気味好い展開で、視聴者を飽きさせなかった事にあると思います。
そして三つは、主人公・半沢直樹を演じた堺雅人が「はまり役」として、遺憾なく存在感を発揮した事にあると思います。

堺雅人は数々のドラマや映画に主演しており、数々の賞も受賞している俳優です。
温厚で骨太ではない第一印象は、銀行マンとして違和感のない容貌と言えるでしょう。
『南極大陸』(TBSテレビ / 2011年)で演じた、大蔵省事務補佐官・氷室晴彦の役柄と、相通じるところがあるように思います。

『半沢直樹』に話を戻すと、私自身は「堺雅人がこれほどまでに目力がある俳優だったとは…」と強く印象を受けました。
シーンの一部をピックアップして、ここで紹介したいと思います。


「けりをつけてくる…」(第5話より)
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東田から5億円を回収し、支店長室に赴くシーンです。
堺雅人の素顔に近い柔和な表情です。


「私は必ず5億を回収する。二度と邪魔しないでいただきたい。」(第1話より)
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本店に呼び出されて事情聴取を受けた際、担当した二人(定岡、小木曽)を論破した後、記録に残すよう記録係に命じた上で、二人を睨み付けて言い放ちます。
まさに宣戦布告です。


「では、お一人ずつ(持ち物を)拝見させていただきましょうか。」(第3話より)
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半沢追い落としありきの「裁量臨店」で、書類の不備が次々と発覚し、窮地に…。
最終日、前もって施した仕掛けにより、監査する側が書類を故意に抜き取った事を明るみにし、同席していた渡真利の助け舟もあり、更に張本人を探し出すべく「してやったり…」の笑みと鋭い視線で迫ります。
防戦一方から反転攻勢に…です。


「私はこの融資に関して、処分を受けるようなことをした覚えは一切ありません。」(第4話より)
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「裁量臨店」の失敗に懲りることなく、浅野は半沢に対して執拗な攻撃を止めません。
しかし、竹下の協力で浅野と東田がつながっている証拠を掴み、更に浅野の携帯電話に偽名(花 — 半沢の妻の名)で証拠の画像を送信し、一見冷ややかながらも鋭い視線で反応を窺います。


「俺はお前を許さない!。自分のした事を一生悔やんでいけ!」(第5話より)
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浅野は、今までの事を言い訳がましくも詫びます。
やり取りの途中、浅野の奥さんが訪れて半沢の手を握り「本当に、どうか(主人を)よろしくお願いします」と頼んで去ります。

「家族だけは傷つけたくない…告発だけは…」と哀願する浅野に対し、半沢はまさに鬼のような形相で、語気鋭く言葉をぶつけます…。

浅野の奥さんが訪れていなかったら、恐らく半沢は浅野を告発していた事でしょう。
でも告発をしない代わりに、本部の営業第二部へ配転させるよう条件を出します。


「俺を入れるのは容易な事ではないだろう。それでもやれ!」(第5話より)
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支店長の威厳も逃げ道も失った浅野に、半沢は穏やかな表情を浮かべながらも、命令口調で迫ります。
更に、「うちの課の連中は、全員希望のポストに就けてもらう。いいな!」と追い打ちをかけ、答えに窮していると容赦なく「どうなんだ!」と語気を強めます。
「わかりました」と答える以外ありません。
とどめに、「5億を回収した時は、土下座して詫びてもらう」と言う、かつての約束を突き付けます。
浅野が頬に涙を伝わせ、両手をついて詫びを入れるのを見届け、半沢は支店長室を後にします。

全てが決着後に竹下に会った際、「上に行くためにあいつ(浅野)を利用しただけです」と述べていますが、結果として「名よりも実を取った」と言う事でしょう。

赴任先の東京では、更に大きな試練を背負い、奔走することが予告されています。
果たして、半沢は新たな人間関係をどう構築し、いかにして困難に立ち向かって行くのでしょうか。
今後の展開が待ち遠しくもあります。

登場する人名は「敬称略」とさせていただきました。

最後に、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

《追伸》 2013年8月19日 / 20日 / 22日
字句の追加・訂正を行いました。(冒頭の日付が1週ずつずれていました。現在は正しい日付となっています。何ともお恥ずかしい限りです。)

それはさておき、『半沢直樹』がここまで人気を博すとは — 実のところ、当のTBSテレビは「嬉しい悲鳴」どころか「困惑しきり」なのではないでしょうか。
2回の水入り(7月21日・8月18日)を行った事を見るにつけ、このドラマに必ずしも期待をしていなかった事が窺い知れます。
「予想外のヒット」に慌てたものの、スケジュールが固まっていて時既に遅し — と言ったところでしょう。
今回の事を教訓に生かし、再び「ドラマのTBS」と呼ばれるようになれば何よりですが…。

《追伸その2》 2013年9月28日
去る9月22日の最終話をもって、『半沢直樹』の放送は終了となりました。
全10話、一度の中だるみを起こす事無く、最終話の視聴率は何と平均42.2%(瞬間最高は46.7%)を記録しました。
エンディングについては賛否両論あるようですが、池井戸潤氏の最新刊『ロスジェネの逆襲』では、出向先の証券会社での、半沢の奮闘が描かれているとの事なので、原作に則った上でと言えるでしょう。
ドラマの続編があるとすれば、この『ロスジェネの逆襲』がたたき台となる事でしょう。

最終話のエンディングを見て、私の頭をよぎったのは

 人を呪わば 穴二つ  のことわざでした。

復讐(◯倍返し)には相手のみならず、する側にも累が及ぶ事を肝に銘じておくべきと言う事です。
さしもの半沢も「100倍返し」ともなると、自らも「傷」を負わずには済まなかったのです。

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by tane_mackey | 2013-08-17 16:47 | 時事・社会 | Comments(0)